隧道倶楽部 ①

佐伯 圭

日本百名城を廻り始めて十数年 残すところわずかだ
四十七都道府県にも ひと通り足を踏み入れた
もちろん 日本全国津々浦々 とまではとても行かないのだけれど

そうやってあちこち旅していると
旅の 本来の目的とは 全く違うのに
突然現れた風景に 引き寄せられることがあった

十年以上前になる 山梨の城を見に行くのに 秩父を抜けたのだが
市街地を避けて車を走らせる 目の前に その隧道は姿を現した

自然の中に取り残された人工物
明治 大正 戦前 戦後 時代は問わない
かつて 時代の先端で構築され
いまは忘れ去られ あるいは朽ち果てようとしている遺物に
惹かれている自分に気づいたのは
秩父の山中にある この隧道に出会ってからだった

自分の中の この性向に いくつかあるペルソナの一つとして
「隧道倶楽部 会員1号」と名付けたのは
きっかけが隧道だったことから来る 遊びでしかなかった

 「隧道 その1」

          とき  2009年5月
          ところ 埼玉県秩父地方   

 カーナビの命じるままに車を走らせていくと
 突然 その隧道に出会った
 向こうから誰も来ないことを祈りながら
 車一台がやっとの幅を徐行して抜ける
 けれど 今
 見えない何かとすれ違わなかったか
 車を止めて 振り返った これはその一枚


著者略歴
佐伯 圭(さえき けい)

1954年 伊勢崎市生まれ
1985年 詩集「透過光」(装填の会)
2013年 詩集「ゴッタ」(榛名まほろば出版)
2015年 詩集「ネオ・エッダ」(同上)

個人詩紙「濫書堂通信」発行
詩誌「東国」会員
群馬詩人クラブ会員、日本詩人クラブ会員

群馬県伊勢崎市在住