坂の下のまさか
坂の下のまさか
提箸 宏
坂の下にはまさかがある
T字路を左に曲がり
右にカーブを切りながら斜度二十五度の標識の前を過ぎ
次のT字路を右に
右側から下ってくる道と
左側に下っていく道を
カーブミラーでやり過ごしながら
さらに次のT字路を左に
そこから一直線の長い下り
スピードを出しすぎないで、
突き当りに公民館
四つ目のT字路を右に曲がったところに
まさかがある
一日の物語は家の前から
始まっているのだが
まさかの前で一本になったところで
絞り出されたように
この町を抜けることになる
途中
多くの横道があるにはあるのだが
側溝から溢れた雨水のように
ここから流れ出す。
まさかを過ぎ
踏んでいたブレーキを緩める
あるいはここからアクセルを踏みなおす
平らかな道
これから一日を始める助走
坂の下のまさか
坂の下にはまさかがある
まさかは食べ物屋
夜は店の前に提灯を下げ飲み屋に
まさかの前を通って坂を上るときもある
雪の降り積もる晩
公民館に車を止め
白い息を切らせ
滑らないように足元を確かめながら
あるいはちょっとほろ酔いの千鳥足で